弁護士が教える「分けるとき」の考え方(前編)

たとえば、日常生活でも「食事代を割り勘にしよう」と言っておきながら、その支払額を「男性が多く出す場合」や「年次が上の者が多く出す場合」などがあります。弁護士として相談を受けるとき、多くの場面で「物」を分ける、「利益」を分ける、「責任」を分ける、「負担」を分ける、など、様々な「分ける」ことについての議論をすることがあります。そこで、物事を「分ける」考え方について述べてみたいと思います。今回は、分ける対象と、分ける当事者についてです。

  1. 分ける対象は何か
  2. 分ける当事者は誰か
  • 分ける対象は何か

当事者間で、「分けたい」と思っていても、そもそもそれが「分けることができるのか」を考える事が必要です。こういった相談を受けたことがあります。

ある3兄弟のうちの長男と三男2名から、「年老いた母親の財産を私たちが相続するのだから、あらかじめ分割しておきたい。相談に来なかった次男は、家族をもって遠方に住んでいるから、分けなくてもいいと思っている。どうやって母親の財産を分けたらいいでしょうか。」

こういった相談を受けたとき、そのまま「分ける」話に進んでしまうと、その分け方について非常に苦しい議論に進んでしまいます。誰が母親の面倒を見たとか、同居していた期間はどうか、結婚式の費用を出してもらったか、などの事情へと話が進んでしまうことになります。

しかし、この兄弟の質問は、「兄弟には母親の財産を分割する権利がない」ということを忘れています。

話を聞くと、まだ母親は60歳代の後半であり、これからも十分自分の財産を使って生活していくと思われます。また、母親の財産を息子たちが勝手に分割することを決めてたとしても、母親は自分の財産を自由に処分して構わないのですから、兄弟が何を決めようと関係ありませんし、死ぬまでに財産を使い切ってしまえばそもそも分ける相続財産もなくなります。いま兄弟たちが議論していることは、法的に処分する権利がない財産の分割について悩んでいる状態なのです。

ですから、「そもそも何を分けようとしているのか」、「それは分けることができるのか」、については最初によく検討しておくことをお勧めします。

  • 分ける当事者は誰か

何かを分けたいと思っている当事者についても、検討しておく必要があります。

先ほどの例を考えていると、3兄弟のうち、次男は相談に参加していません。仮に、この母親が死亡して、この3兄弟のみが母親の財産を相続したと仮定すると、この長男、三男だけで決めたの合意は次男に対して効力を有するのでしょうか。

「契約は他人を害さない」という法諺があり、長男、三男だけで、次男の取り分を0とする合意は、次男に対して効力を有しません。なお、いまの日本の民法では、兄弟の生まれた順番で優劣関係は設けられていませんから、長男が財産を分配することもできません。

このように、分けることができる当事者についても考えておく必要があります。本来的に、その利益を得ることができる人がいるにもかかわらず、その人を無視してなされた合意は法的にはその人に効力を有さない、ということは知っておいてよいでしょう。

この記事を書いた人

中村 譲
中村 譲弁護士
約三年間、ベンチャー企業のインハウスローヤーとして企業経営に直接携わる立場で、様々な案件を扱ってまいりました。企業の中に身を置いたことで、経営レベルの案件も、営業現場レベルの案件も、大小の区別なく豊富に経験しております。
ベンチャー企業が成長していく過程では、未経験な業務に挑戦することばかりだと思いますが、「まずは行動しないと始まらないが、どの範囲まで進めていいのかわからない」という時に、法務とビジネスの観点から迅速な支援をさせていただきたいと考えています。
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