朝ドラ『半分、青い。』で再燃!大人買いをくすぐる少女漫画・くらもち作品

日本中どこででもリアルタイムで見られるNHKですから、ご家庭によってはテレビで「朝ドラがついていて当たり前」な環境も多いと思います。その一方、一人暮らしを機にすっかり離れてしまった層もいて、筆者はまさにそう。

ところが今作、正式にはNHK連続テレビ小説第98作『半分、青い。』は、自発的に1話から視聴し続けています。それもかなりツボをやられながら。まず脚本が北川悦吏子さんというのが大きいです。

「なるみ!取手君でいいじゃないか」と俳優としてキムタク(木村拓哉さん)を大ブレイクさせた『あすなろ白書』(原作柴門ふみさん)。「あの大きな手、大人の色気で紡がれる手話が素敵」とトヨエツ(豊川悦司さん)の魅力を世間に知らしめた『愛していると言ってくれ』。

♪回れま〜われ、とイントロどん!するだけでドキドキした『ロングバケーション』。バリアフリーを広く認知させ、ヤマハTW200が街中にあふれ、美容師になりたい男子が急増という数々の社会現象を起こした『ビューティフルライフ』など。

北川作品に心踊らされた世紀末を覚えている、30代半ば以降の女性たちは多いことでしょう。

そんな、ただでさえ「懐かしい」ところに更なる爆弾を落としてくれたのが今作の朝ドラ……40代以降の女性ならばもうお分かりですね。

くらもちふさこ漫画が、まんま出てるぅ〜!!!」

そうなのです、ドラマでは豊川悦司さん演じる秋風羽織というパラレルですが、テレビに映ったコミックは集英社の!マーガレット装丁の!あの画風!そのままなのです。

ネットニュースで話題にのぼったので、筆者のように朝ドラ離れした昔の少女たちにも知れ渡った模様。夢中になって読みふけったあの頃を思い出したら、次なる欲求は「大人買い」です。

調べると当時の中古コミックが2,000円というビックリプライスも目撃(コレクター商品などは0が異常)。しかし今はありがたいことにコミック文庫や電子書籍があるのでお手頃に楽しめます。

せっかくの再燃ブームですから、筆者も「若い読者にぜひ読んで欲しい」「同世代読者には共感を得たい」と便乗します!アイドルが超輝いていた80年代に、女子のハートを鷲掴みにした「くらもちふさこオススメ4選」をご紹介します。

『いつもポケットにショパン』

『半分、青い。』では、主人公鈴愛(すずめ/永野芽郁)が、幼馴染の律(りつ/佐藤健)から借りた漫画としていきなりの登場。さらに漫画のシーンに寄せたドラマ内での演出や名セリフの完コピなど、本作は北川さんのイチオシなの?と勘ぐりたくなります。

主人公の麻子(あさこ)と季晋(としくに/通称きしんちゃん)もドラマ同様の幼馴染。斬新な感性が随所にちりばめられた作品で、「きしん」という珍しい響きのあだ名、男の子は野球やドッチボールの時代に「ピアノ」をプレイさせるという、かなりセンセーショナルな設定でした。

二人とも母親がピアニストという生い立ちがあって読者は納得。そしてクラシックの道を、それぞれの背景と才能に紆余曲折しつつ歩んでいきます。

『のだめカンタービレ』『NANA』『青空エール』より遥か昔、表情や仕草、コマ割り、アングルや効果線といった漫画テクニックだけで音を表現。現在の音楽漫画のパイオニアと言っても過言ではないでしょう。

「目で音楽が聞こえる」と読者のスペックを高め、妄想力も鍛えられました。

連載当時は麻子に心を寄せたものですが、大人になると伏線、葛藤、気づきを読み解けて「こんな深い漫画だったのか」と改めて感動できます。特に麻子の母の深すぎて見えにくかった愛情は必読でしょう。

加えて長い歳月が流れても、きしんちゃんの素敵さは色褪せないことを再認識できます。絵(タッチ)の古さは否めませんが、ペンタブにはない肉筆の生きた線や味、一発書きの勢いは唸る部分が多いでしょう。そしてきしんちゃんの「横顔」は21世紀でも十分通用する美しさで、旋律の律を演じる佐藤健さんと重なるものが…ぜひ本作でお確かめください。

『東京のカサノバ』

二人の兄をもつ主人公の貴子(たかこ/通称ターコ)は、裕福といえない母子家庭で育つ女子高校生。下の兄・暁(あきら/通称ちいちゃん)へのブラコンぶりを描いた序盤、早くも少女漫画的なショーゲキの事実を知ります。「ちいちゃんは血の繋がらない兄」かもしれないと。

そもそも冒頭で、桃井かおりさんを10代にしたような貫禄の女優羽生かおりが、撮影中に赤ん坊をケロッと産むというエピソードが描かれます。ドラマ『古畑任三郎』の手法と等しく、あらかじめ読者に答えをバラし、まだ何も知らないキャラたちのあれやこれやに「ああ!もどかしい!」とずぶずぶハマります。

ちなみに暁は妹に甘い兄でありつつ、いろんなタイプの女性を吸い寄せるほどに魅力的で、飄々とした人たらし。この天性のオーラをさりげなく彼のルーツに結びつけておくあたりが、作者の緻密で繊細な才能のなせる技です。

連載としては短めですが、ターコとちいちゃんの距離感と関わり方が絶妙で、何度でも読み返したくなります。後半、ちいちゃんのクールな表情の奥底に秘めてきた、暑苦しいほどの好きの定義、涙ぐましい努力、ワインのように熟成させてきた想い、カムフラージュしてきた渇望などが晒されることに。

実写化が増えた昨今とはいえ、紡木たく作『ホットロード』がふさわしい役者がいないと何十年も実現しなかったように、ターコやちいちゃんも同様と思われます。筆者などは「漫画のままでいい」と結論づけていますが、読まれた皆さんはいかがでしょうか。

『アンコールが3回』

本作あたりで『いつもポケットにショパン』の頃のデッサンは薄れ、チャレンジングと思われたドラマチックな線が主流に。「くらもとふさこルネッサンス」とも呼べるタッチで本作は描かれています、

ストーリーの舞台は芸能界、主人公はディーバ(歌姫)二藤ようこ。のちにメガヒットスターとなったアメリカのマドンナが、世界へデビュー旋風を巻き起こした頃に連載はスタート。その影響か、ようこの印象を一言で表せば「和製マドンナ」に尽きます。

ワケありな家庭環境にいた女子高校生が、スターダムへと登りつめた背景には秘密の事情が…。もちろん本作でも早々に読者へ明かされる、ようことイケメン敏腕マネージャー不破類(通称不破くん)との関係。少女漫画王道のオイシすぎる秘密です。

事務所の看板シンガーとして右肩上がりのようこは、不破がかつてマネージャーをしていたロックシンガー麗太に難癖をつけられます。「不破ちゃんを俺に返して」と。ゲイ疑惑のあるミステリアスな麗太ゆえ、不破とまさかの関係か?信じるつもりはないようこですが、彼の執着さから向き合うこととなり、やがて業界、人気商売、自分の商品価値といった裏事情も見えてしまうのでした。

ファンに愛される虚像(アイドル)の時代から、強い意志をもったアーティストへとニーズ&ウォンツが移り変わる、当時のうねりそのものが描かれている本作。やがて噛み合わなくなる、シンガーようことマネジメントサイドの不破、特別な存在として生きるか、普通に生きるか、その結論は…?

ラストへもつれこむ怒涛のライブシーンは、1コマ1コマに血湧き肉躍るパフォーマンスが描かれ、客席の最前列にいるような大迫力。「二藤ようこの5文字を頭に刻み込んできたやつら(中略)思ってるぜ。やっぱりすげースターだって」とモブキャラのセリフすらグッとくるほど、熱狂と興奮と歓声(漫画なのに)で30年以上経っても紙面をギラギラとさせています。

『Kiss+πr2』

『半分、青い。』で、秋風の担当がおずおずと「タイトルがわかりづらい」と切り出したのが本作で、『キス プラス パイアール ジジョウ』と読みます。『たいへんおまたせしました』が短編で描かれ、のちに『Kiss+πr2』が続編として収録されました。

当時読んだ感想は目新しいヤマなしオチなし、ぬるい話に読めて、早く続きが読みたい!とはなりませんでした。しかし今読み返すと80年代の筆で、2018年の若者の生態や価値観を描き上げたような「早すぎた傑作」と訂正させてください。

ほぼ全編が、主人公雑賀喜由(さいがきよし)のモノローグで綴られるテレビドラマのような手法。ちなみに彼の母は蒸発、父とは死別、子どもの貧困をもう匂わせています。なんとか腐らず成長したものの「期待しない」「他人と距離を置く」「諦めがよい」を処世術とし、サトリ世代まんまに育ちました。

ところが高2のバレンタインに転機が訪れます。雑賀のもとにチョコを持参した葵(のちの卒業式で1年先輩と知る)。まさかのボヤ騒ぎ、お詫びの宝くじ、焼き芋持参の再訪、新聞紙袋にあった当選番号…葵との出会いで雑賀の現状は180度逆転します。

しかし雑賀の「こじらせ」「ネガティブ」「コミュ障」「自己完結」は年季が入っており、固い殻のように簡単に幸運を受け入れられません。それが葵、冬子、阿保、青沼、ポパイといった周囲との接触を重ねて、本当の自分を掘り出していく過程を丁寧に読ませてくれます。

雑賀の視点、洞察、分析のロジックがしっかりしていて面白く、加えて言葉使いが的確で洗練されています。「死んでもいいから食べればよかった」と思わせるほどの後悔、「請求書みたいな顔」に例えた友への疑心と自己嫌悪など。漫画を詩的に読ませる数々のテクニックに、大いに唸って、大いに楽しめる作品です。

最後に

今となっては信じがたいことですが、くらもち作品が続々と生み出されていた頃は、漫画という趣味は必ず「卒業」しなければならない代物でした。本や雑誌に切り替えてこそオトナ。卒業した漫画は親にちり紙と交換されてしまったり、泣く泣く小さい子に譲ったり、実に数奇な時代でした。

だからこそ、大好きな漫画の感動や満足感は深く刻まれているのかもしれません。ちなみに北川悦吏子さんだけでなく、作者のパラレルを演じた豊川悦司さんもファンだとか。くらもちワールドの特長のひとつである「名セリフ」は、役者魂にも響くものがあるのでしょうね。

そして数多くの作品を生み出した別冊マーガレットから活躍の場をコーラスに移し、現在はコーラスから改題された『Cocohana(ココハナ)』で執筆されています。

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